人形・工芸作家 橋本 清展

2002 6月21日(金)〜7月27日(土)


  

木彫り

            布、金属

             布、金属 
 「カワイイ!」「ステキ!」という評価は、いつも黙って頂戴はしておくが、決して自分の意にそぐうものではない。
(抱き)人形には所詮"愛玩"ということはつきまとう。命のないペットかもしれない。
 今までの人形作品がいかに美しく、また愛らしく出来上がっていたとしても、そこに内在する、本質を見いだした評価で語り合ったことなど一度もない。 むろんそんな必要はないのかもしれないが、"悲哀と絶望"を極限まで込めることで、人形の表情を追究してきたつもりではあり、そこに人形たちの表情が成立する根拠があった。
実は 一貫して"悲哀と絶望"をモチーフとしたパラドックスであった。
 多かれ少なかれアートにはそういった要素は不可欠であろうが、人形という形態をとったばかりに"ずれ"の幅が大きいように感じてしまうのは自分の傲慢だろうか。

 人形の顔ほど製作に緊張感を強いられることはない。ちょっと油断をするとイメージからどんどん遠ざかってしまい、表情の乏しい、脆弱なヒトのミニチュアと化してしまう失敗は日常茶飯事。
 『十年早い』とか、新米を貶す言葉がある。自分が三十年 以上人形に取り組んできたにもかかわらず、こと人形に関しては熟練を感じたことがない。 自分の"へたさかげん"に呆れることしばし。 「素材やデフォルメの幅が広すぎるからだろうか」などといろいろ考えてみても、所詮答えは一つ"未熟"の一語やっと今、黎明期の兆しが
見えた。

 潮騒や小鳥の声が聞こえる。
「ふっ」と、緊張感から解放され想い浮かぶ自然の情景。絵や詩に描き留めるように、素直に木に彫り込んでみた。自ずと湧き出でるシンプルなフォルムはなんの気負いもなく "表現"という、うさんくさい衣を脱ぎ捨て、あたかも渓に舞う蜻蛉のごとく、涼風に身を任せて・・・・・。

平成14年 夏    

      橋本 清    

 10年前の6月 ギャラリー 「spaceS」は橋本氏の人形達でオープンしました 当時のご挨拶で「ヨーロッパ滞在で得た体験をもとに 新たな出会いや交流をめざしたクリエイティブな空間を実現したい」と書いていますが 模索しながらもそれに近いものに成りつつあると自負しております。その間多くの企画展をやらせて頂きました。どれもこれも思い出深い作品ばかりです。残念ながら鬼籍に入られた作家もおられて 時分の華のような作品に巡り合うのも 一期一会と知りました。

 次ぎの10年は 多くの方にもっと気楽にアートに触れて頂きたく 「ホーム・ギャラリー」の提案もしていきたいと思っています。

 10周年にあたり再び橋本氏の新作人形をはじめ 久し振りに帰ってきた人形達をどうぞ又見て下さいませ。
Space S    安藤 寿美子